凄腕美容師と新米美容師
私には、行きつけの美容室がある。
しかし、表参道や原宿など小洒落た場所ではない。
最寄り駅にあるチェーン店だ。
ここの女性店員は皆綺麗である。お気に入りの子もいる。
それが、通い続ける理由となっていることは、容易に想像できるだろう。
運良く彼女が、私のシャンプー担当になった時は、
「もう、このまま一生洗い続けてくれ。」心の底からそう思うのだ。
だが、最大の理由は、私の髪型を3年間担当してくれている男の美容師の腕に、絶大なる信頼を置いていることにある。
夏になると、湿気でネジのような前髪になるほどの癖っ毛を、見事にそこそこモテそうな髪型に仕上げてくれるのだ。
美女店員と凄腕美容師がいる美容室で過ごす時間は、月に一度の至福の時であった。
しかし、そんな私の楽しみをぶち壊しにする新米美容師が現れた。
彼は、私の担当である凄腕美容師の元で研修期間を過ごすことになり、
そのため、私のシャンプーを常に担当することになったのだ。
あれからというもの、美女店員に頭をゴシゴシされることはなくなってしまった。
こんなことになるのであれば、
ちゃんと最後のゴシゴシを噛み締めておけば良かったと後悔をしても、もう遅かった。
新米の彼のシャンプースタイルは、非常に独特なものだった。
まず、普通の美容師であれば、顔に布をかけてくれる。
水の飛び跳ねを防ぐと同時に、常にお互いに顔を見合わせなくて済むからだ。
しかし、彼は布を一切かけない。
飛び跳ねた水は、全部私の顔にかかっている。
さらに、彼は顔を見合わせるどころか、めちゃめちゃ話かけてくる。
自分もそれに答えようと話すが、口を開けた時に、飛び跳ねた水が入ってくることが
不快でしょうがなかった。
シャンプーを終えると、凄腕美容師にバトンタッチし、
いつも通り見事に綺麗に仕上げてくれた。
そして再び、新米の彼にバトンタッチすることになった。
すると彼は、「それでは、もう一度洗い流しますね」と言って、
私の切られた髪の残骸が沢山乗ったカットクロスを華麗に取り外し、
見事に私の足首に全てぶち撒けて見せたのだ。
しかも気づいていない。
切られた髪の毛達が、ロールアップしたことでチラ見せしていた白い靴下に惜しみもなく付着した。
そして私は、チクチクする足首を気にしながら、再び地獄のシャンプー台へと向かった。