カフェ勤務のエース店員
カフェで働いて、3年が経つ。
誰よりもミスが多く、お客様とバイト仲間に迷惑をかけていた自分は、
今やベテランの域に達していた。
360°どこから見ても美しいドリンクを作る力、
お客様のニーズを的確に掴む力、
新米を育てる育成能力、
気持ちの良い接客など、様々なスキルも身についていた。
店舗内では、勤続年数・スキル共に、エース級だった。
エースともなると、常連さんとの世間話にも花を咲かせる。
お互いに顔見知りになるのだ。
「今日も、美味しかったよ。」
「いつも、ありがとうございます!」
「カフェラテのショートサイズで!」
「あれ、珍しいですね!今日もソイラテじゃないのですか?」
「たまには、新しいのに挑戦しようと思ってね!」
こんな具合だ。
エースは、休日のシフトインが多いのも特徴だ。
休日は、店内が激混みになるため、エースが必要なのだ。
そんな私は、今日も休日にシフトイン。
しっかり2時間働いて、裏の事務所で休憩をしていた。
「いらっしゃいませ〜!」
「店内ご利用のお客様は、お先にお席の確保をお願い致します〜!」
「コンアモーレー!」
他の店員の声が、店内の激混み具合を物語っていた。
休憩が終わり、エプロンの紐を力強く結び、激混みの表舞台に再び向かった。
エースともなれば、エプロン1つとっても、美しく着こなすのだ。
身なりを整える事が、気持ちを引き締める為には必要だと知っているからだ。
だって、私はエースなのだから。
休憩後、自分のポジションは、レジ打ちだった。
休憩を挟んだせいか、まるでピアノを弾くように、
流れるようなレジ打ちを披露して見せた。
商品を購入する為に列をなしているお客様も、自分の方を見ている。
特に、自分の胸元につけている名札を見ているように感じた。
「あの店員は凄い!! 一味違う!!!」
「この有能な店員の名前は、なんていうんだろう?」
そんな風に思っていたのかもしれない。
そして、あるお客様がついに、
私の胸元を指差しながら大きな声で話しかけてきた。
「あの〜。エプロン裏表になってますよ。」
「・・・・。」
自分の目を疑った。
エプロンに付与された店のロゴは、刺繍のされた側がむき出しで、汚らしい。
胸元に身につけていた名札も見事に、安全ピン側が見えていた。
ちっとも名前なんて見えてやしなかった。
ま、ま、まぁエースともなれば、『あえて』エプロンを逆に身につけ、
お客様の笑いも取る事が出来るのだ。
そ、そう、『あえて』である。
そんな強がりを態度で見せたものの、
恥ずかしさを紛らわすことは出来なかった。
後輩たちの笑い声が聞こえる。列をなすお客様の笑い声が聞こえる。
これほどまでに、裏の事務所に引き返したいと思った事はない。